深夜に読め。深夜以外には読むな。【うるのん】
現在AM1:49。
いわゆる深夜である。
作業や勉強が捗り、ついつい夜更かしをしてしまう事は多々あるだろう。もちろん布団の上でスマホをダラダラといじってこの時間になるのも悪くない。
時間は誰にでも平等に与えられているから。
いつもの感じで行くと、「そもそも、時間ってなんだろう?」ってなりそうだけど、今日は違う。
深夜における慢性的で不可避な問題、それは
空腹。
…そう。今回は深夜に飯を食おうという話である。
あまりにもお腹が空いて寝れない時、みんなはこう考える。
「今食べたら太る」と。
しかし僕はこう考える。
「お腹があまりにも空いて睡眠に支障が出るというのは、明らかに体からSOSが出ている証拠である。なにより、そこまでしてとった睡眠に価値があるのだろうか?明日世界が終わるとしたら、前日の空腹を我慢した事を悔やみながら死ぬのだろう」と。
なんだか聖書のような文体になってしまったが、いつもこのように理由をつけてのそのそと布団から出る。
台所に行って冷蔵庫をあける。
絶望的なまでに閑散と緊張に満ちたそのフィールドには、最後の晩餐たり得るかもしれない食材は見当たらなかった。
気をしっかりと保ち野菜室に手をかける。
摂取カロリーより消費カロリーが多いことから「緩やかな餓死」を促す食材として有名な「セロリ」でもあればいいなと期待を込めて一気に野菜室を開ける。
トマト、キュウリ、ニンジン、タマネギ…
見慣れたオールスターズが首を揃えて居座っていたが、肝心の「セロリ」は見当たらない。
じゃがいもがあったのでそれとチーズでなにか作ろうかと思ったが、深夜に芋の下ごしらえなんて誰がしたいのだろうか。
一瞬よぎった「ジャガイモのパイユ」案は夢の彼方に散っていった。
冷蔵庫に希望の食品が無く、あまりの落胆ぶりに体がラーメン屋に向かおうとしているのを必死で抑える。
そう。実は家から徒歩20秒のところに深夜営業のラーメン屋があるのである。
深夜のラーメン。それはまさに悪魔的旨さという表現がぴったりである。
睡魔により少し機能が衰え始めた脳への、あまりにも刺激的な香り。深夜の乾ききった心と体に染み渡るスープ。僕らの不安や焦燥を一手に引き受け、胃の中へと一緒に心中してくれるあの麺達の事を想像すると涙とよだれが止まらない。
柔らかで口の中でとろけるチャーシューやトロリとしていてなお濃厚なアクセントをもたらす煮卵、健康的な朝を迎えたいだろうと満面の笑みで食されるのを待っているホウレンソウや海苔。
この世の全てが詰まった「ラーメン」という神聖な食べ物を深夜に食す。これに勝る至宝があるだろうか?(いや、あるとは言わせない。)
しかしもちろん後先のことを考えず台所に立っている今、ラーメンを食べに行かない理由はどこにもないのだが、そこはいかんせん人間である。
「深夜のラーメン、うまいけど今月もう3回くらいやっちゃってるしそろそろ太るんじゃね…?」
という思想が重い枷となり行く手を阻んでしまった。
どうしようかと途方にくれて俯いた時、一筋のひかりが見えた。
そう。インスタント食品である。
なぜかこの時期になるとインスタントの天ぷらうどんが大量に家にある。本当になんでだろう。
もうこれしかないと藁にもすがる思いで調理方法を見る。
1 開けて中のものを取り出し水を入れ火にかける(容器はアルミの鍋のようなものだった)
2 沸騰したら具を入れ3分待つ
3 完成
…あまりの簡単さに虚を突かれたような顔になってしまった。本当にこれだけの手順で深夜の腹を満たし、無事に朝を迎えることができるのだろうか?
半信半疑のまま調理とは呼べないような調理に取り掛かる。
まずはビニールを開けるところから。
しかし空腹によるジワジワとした焦りがビニールを剥がす手を滑らせ、中々次のステップに移行することができない。
もがき苦しみながらもやっとの思いでビニールを剥がし、中身を取り出す。
そして手順通り、水を入れて沸騰させる。
沸騰するまでの時間が待ち遠しい。一日千秋とはまさにこのことである。
無事沸騰した熱湯の中にうどんと天ぷらを入れる。
ここで3分待つわけだが、2分ほど経ちもうそろそろ飯にありつけるぞ、と意気込んでいるまさにその時にどこからか声が聞こえてきた。
「それ、"月見"天ぷらうどんにしたくない?」
ハッと気がつきタイマーを見るとまだ45秒ある。
急いで冷蔵庫から卵を取り出しガンガンと品性のかけらもない音を出しながらヒビを入れ、鍋の上でぱっくりと割る。
そしてすぐさま蓋をして綺麗な月見うどんが出来上がることを約30秒間必死に祈った。
祈りが届いたのか、蓋をあけると綺麗な満月がそこには浮かび上がっていた。
これで僕の深夜の腹は満たされる…
安堵の中熱い鍋を皿の上に乗せ、意気揚々とそれを机に運ぶ。
いただきますと言うやいなや、箸を破り、一思いに満月を突き刺した。
綺麗に溢れ出てくる卵黄が鍋の中を金色に染めていく。
立ち上るまろやかな香りがハッキリとした輪郭を持つようになり、僕の箸はそのままうどんを掴みにいっていた。
箸をに麺絡めすくい上げると、純白の身に綺麗な金色が映えている。
それを一思いにすすって__________________
ここから先のことはほとんど覚えていない。
気がついたら目の前には空になって誇らしげな、しかしどこか寂しげでもあるアルミの鍋がポツンと置いてあるだけだった。
ふう、と一息ついて布団に戻る。
携帯を充電器にさして、目を瞑る。
ああ、これで快適に眠れる。空腹という名のサタンは銀河の藻屑と消えていったのだ。
また深夜に飯を食う機会があれば次は何にしよう。
そんな事を考えながら、深い眠りについた。
(みんなおやすみ、じゃんもん!)